白翳の家

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1996

写真: 松村 芳治



敷地は東西両面で道路に接する。そして、そこに垂直に西から伸びた道路があたり、敷地に東西の流れをもたらしている。道路を往き来する人々の視線は、建物を介して西から東の借景へと促される。

敷地の流れに沿った1枚の壁と、それと向かい合う3つの直方体。各々の存在から、内―生活と、外―自然をどう重ねあわせるか、を基に構築をはじめた。

まず敷地の南側に流れに沿った壁を建てる。そして、これと向かい合った奥行き17メートルの空間を、東棟・西棟2つの直方体により分割する。東棟には、上部にデッキを持った3×4.5メートルの3つめの直方体が貫入する。これらの3つの直方体は、中庭を中心に統合される。各々の空間でかわされる生活の気配は、中庭を通して自然と交わる。中庭とそれを囲む全ての空間によって、外と内はひとつになる。

空間を切り取る全ての壁は、白い面で構成される。白い壁に映る光、翳、様々な表情が空間に場をつくる。

直方体のつくる空間は、壁によって単純に分割される。これらの壁は開口部を持つことで互いの空間を関係づける。アトリエの地窓、中庭、洗面室を抜け浴室の坪庭を通る外からの流れ。中庭、デッキを中心にかわされる視線や会話。様々な気配が、壁を通してつながりあう。

内を構成する空間には、開口部から差し込む光の表情によって様々な気配がつくりだされる。トップライトからの鋭い光。天空から降り注ぐ柔らかい光。白い壁に広がる優しい光。光の表情は、自然の気配と時の経過を伝える。室は、光によって独自の性格を持った空間となる。単純な平面および断面のつくり出す空間が、多様な性格の室を構成していく。 各々の室は、室名を持たない。建物全体、そして全ての室が、そこで集う人々の全ての行為を包み込む。人々は時を感じ、気を感じ、その時々で様々な場をつくり出す。光、時、人々はうつろいゆく気配を室に映しこむ。



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