RIGATO F
千葉県千葉市, 日本
- 建築家
- 空間研究所/篠原聡子
- 場所
- 千葉県千葉市, 日本
- 年
- 1998
幸か不幸か、今までワンルームマンションの設計をする機会が多くて、そのたびにこの採算で、すべての硬直化したプログラムに何か仕掛けることができないかと考えてきた。単身者居住という形態が過渡的なものともいえなくなった現在、ますますその思いは強い。
各住居の居住水準を上げるということが最重要課題として、次に気になるのは、閉じたワンルームのひとり暮らし、その胡散臭い建物を端に眺めて通り過ぎる人の無関心という関係、建築がどう調停できるかということである。この敷地の隣りに建つ「コルテ松波」(今回と同じようなワンルームマンションであった)のように街路を引き込み中庭をつくるというやり方も、そうした思考過程から出てきた計画である。「コルテ松波」の場合、最初からある会社の社員寮として使用されることが決定していたので、防犯やプライバシーについて割に楽観的に考えていたのだが、「RIGATO F」では設計段階で居住者のイメージはなく、その意味では住戸を対面させる配置は躊躇された。
また駐車場の付置義務をできるだけ機械駐車を使用しないでクリアしたいと考えたので、今回の計画は南面道路にリニアな配置となっている。この場合道路に向かって主な採光を取ることになるから、できるだけ通りとの距離を取るため、通常なら北側廊下になるところをその幅も南面に付加してバルコニーの奥行を取っている。それにしても通りに対して大きく開けられた開口部は、居住者にとってはあまりに無防備である。その心許なさを建築が受け止めて、さらに通りに対しての表情が行き過ぎる人びとに快く受け入れられたなら、それが両者にとっての良好な関係のはじまりであろう。南面に取りつけられたアルミルーバーはそのための装置である。
日本の伝統的な建築のファサードの大切な構成要素であった格子や簾が、視線を適度に遮りながら、しかもあからさまに外部を拒絶しないやり方で、狭い路地にあっても居住空間と通りをうまく調停したような効果をここでも期待したのである。ルーバーはバルコニーの手摺となり、その上部は可動の建具となっている。可動であるから、生活のシーンによって開閉される。開閉されることによって、内外の関係は居住者にとって選択的となる。固定のスクリーンであるよりも両者の関係は柔らかなものとなるだろう。そして、そこでは人の動作がファサードになる。建築が都市に作用するように、人も建築に作用する。これはその作用が建築の構成要素の内側の問題として解決できるかどうかという試みであり、ひとり暮らしも都市の景色と良好な関係を結べるかという試みでもある。
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